VOCALOIDの青いお兄さん中心に好き勝手に書き散らしてるブログ。オフライン情報がメイン。
作品はピクシブにて公開中。ジャンル雑多になりつつあります。
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マスター視点はここまでです。今後はほとんどKAITO視点になります。
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「んー、どうしたものかなー」
ソファに座っているカイト、ミク、メイコを見ながら初城がため息をつく。
歌えなくなったVOCALOIDの今後について、だ。
「修理とか出来ないのか?」
「あのね、わたしはただのユーザー扱いなの。しかも、音楽関連以外はまったくダメなのよ」
「じゃ、どうするんだ?」
「……とりあえず、わたしんちで預かる? ミクとメイコもいるし」
「そっちのほうがありがたいな」
扱いがまったくわからない俺のところにいるより、初城のところにたほうがいいだろう。
「そしたら、博士と連絡取りやすいし」
初城の言葉を聴きながら、カイトに移していた視線が止まった。またこいつ、震えてた?
「カイトさんも一緒に帰るんですか?」
「うん、そうだよー」
「わあ、なんか楽しくなりそうですね、メイコさん!」
満面の笑みで喜ぶミクとは裏腹に、カイトの表情は重い。
無視しきれない違和感を覚え、じっくりと観察してしまう。
「ま、あたしたちと一緒のほうがデータ取りやすいし、博士とも連絡つきやすいものね」
さっきから、カイトは『博士』という単語が出るたびに、なにかに怯えているような動揺しているようなそぶりを見せる。
今も、だ。
メイコの口から出た、一つの単語にきつく右手を握り締めている。
「じゃあ、カイトくんはこのまま連れて行くねー」
初城に促され、カイトの足が前進む。
「ちょっと待て!」
オトが作りたいのに、作れなくて息苦しくなった。周りの人間が次々と新しいオトを作るのを、嫉妬と羨望が混じった感情で聞いていた。
結果、耐え切れず逃げ出した。その先に、出口はなく無気力な輪の上を歩かされている気分が続くとも知らずに。
歌うために作られた、歌えなくなったカイト。
それを初城のところにやっていいのか? 俺が感じた孤独と嫉妬と壊れそうな絶望を味わうことにならないか?
「……こいつ、俺のところにいても問題ないんだよな?」
呼び止めた俺を怪訝な表情で見ていた初城の顔がさらに色を濃くする。
「まあ、問題ないとは思うけど……て、え?」
「俺が預かる」
「ちょ、本気!?」
「俺が拾ってきたんだし、俺が面倒みるほうが順当だろ?」
まだなにか言いたげな初城を放っておいて、カイトの目の前に立つ。
改めて正面から見つめた瞳。引き込まれそうな、蒼。
「問題ないよな?」
戸惑うような光が浮かぶがそれを無視した。
「なにかわからないことがあったら、お前に連絡する。それでいいだろ?」
カイトの肩越しに初城を見ると、盛大なため息をついていた。
「無茶して、壊したりしないでよ? 一応、この子たち皆試作段階らしいんだから」
「そんなヘマはしない」
きっぱりと返した俺に、初城は諦めたようにパソコンのアドレスを置いていった。
なにかあったら連絡しろということらしい。渋々だったものの、後でミクとメイコのときに教えてもらったマニュアルを転送してくれるようだ。
「あの、」
玄関まで初城を見送り、リビングまで戻ったとき、カイトが口を開いた。
「本当に、いいんですか?」
「なにが?」
「その、俺がまた歌えるようになるまでここにいても……」
「初城のところにって、落ち込みを強くしたいのか?」
眠さも手伝ってきつい言葉になったと気付いたのは言ってからだった。
『似たような場所』に立っているから、ほうっておけなかった。自分を見ているようで。
うずくまって、どこにもいけないと佇んでいるのに腹が立ったから、なんとか動かしたかった。
――『俺』も『こいつ』も。
「……お前のためだけにやるんじゃない」
諦めがつけられず、堂々巡りになっている自分もどうにかしたい。
出口が見つからず、入ってきたはずの扉も消えてしまった俺の目の前に降って湧いてきた、見たこともない扉。
このままここで立ち止っている状況をなんとかしたかった。そのために、似た場所にいたこいつを利用しようとしていたのかもしれない。
『誰かのため』という大義名分があったほうが、足を踏み出しやすいと知っているから。
――この日、学校を辞めてからただ伸ばしていた髪を切り、最期の決意を込めて、扉を押し開けた。
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