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VOCALOIDの青いお兄さん中心に好き勝手に書き散らしてるブログ。オフライン情報がメイン。 作品はピクシブにて公開中。ジャンル雑多になりつつあります。
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***********
 二時間後に起きた『彼』は時計を見た後、舌打ちをし素早く着替えを済ませた。
 物音にリビングに出て来た俺に気にすることなく、出かける支度をし、玄関へと通じるドアにてをかけ――。

「調整……だっけ?」

 そのまま出て行くのかと思ったら、ふいにそんなことを訊ねてきた。

「……調整でも調律でも調教でも、お好きな単語で大丈夫です」

 俺たちに歌を吹き込む行為のことだ。実際、色々といわれている。博士は調律という単語を使っていた。

「帰ってくるまで待っててくれ」

 それだけ言うと、『彼』はドアの向こうへと消えた。
 窓の外の景色はすでに暗くなり始めている。



 ――――帰ってくるまで待っててくれ。



 その言葉が実現される日はこなかった。
 出かけた日はいつも明け方に帰り、シャワーを浴びたと思ったらベッドに倒れこむようにして眠る。
 起きるのは大抵昼過ぎだった。そして、また慌てて出て行く。
 朝、俺を見かけるたびに、バツが悪そうな、申し訳なさそうな色を浮かべていた。

「――――悪い」

「なにがですか?」

「言ったこと、守れてなくて」

 ああ、なんだ。そんなことか。

「別に気にしてないですよ」

 これは本当のことだ。歌えないVOCALOIDを真剣に調律しようとする人間がいるなら、見てみたい。
 この人も、自分が言ったことを後悔しているのだろう。この二週間、夜に出続けてるのがいい証拠だ。
 どう撤回しようかと考えているのだろう。
 一瞬だけ、深いそうに眉根が寄せられた、気がした。瞬きをしたときには、いつも通りの表情になってしまった。

「……行ってくる」

 なにか言いかけて、彼が踵を返す。
 その背中を見ながら、追い出されるのかなとぼんやりと思った。
 玄関の閉まる音が聞こえると、俺は日課になっているパソコンの前へと向かった。
 フォルダを開き、ここ毎日のように再生しているファイルを開く。
 紡がれる静かな、物悲しくて優しい旋律。
 彼が作ったファイルを一通り聞いた後、この曲ばかり聞いていた。
 どこか懐かしさを感じるような……。
 そこまで考えて、自嘲気味に笑った。
 俺―ツクリモノ―に懐かしさなんてあるわけがない。
 あるのは詳細なメモリ。ただの記録。それなのに、懐かしさなんて……。

 椅子に座り、机に頭をつける。耳がスピーカーに近づいたことで、音が直接頭に響いている錯覚を起こす。


 ――この音を聴きながら、止まることができたのなら、どんなに幸せなことだろう。


 そう思いながら、ゆっくりと瞼を閉じた。
 
 

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