VOCALOIDの青いお兄さん中心に好き勝手に書き散らしてるブログ。オフライン情報がメイン。
作品はピクシブにて公開中。ジャンル雑多になりつつあります。
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二時間後に起きた『彼』は時計を見た後、舌打ちをし素早く着替えを済ませた。
物音にリビングに出て来た俺に気にすることなく、出かける支度をし、玄関へと通じるドアにてをかけ――。
「調整……だっけ?」
そのまま出て行くのかと思ったら、ふいにそんなことを訊ねてきた。
「……調整でも調律でも調教でも、お好きな単語で大丈夫です」
俺たちに歌を吹き込む行為のことだ。実際、色々といわれている。博士は調律という単語を使っていた。
「帰ってくるまで待っててくれ」
それだけ言うと、『彼』はドアの向こうへと消えた。
窓の外の景色はすでに暗くなり始めている。
――――帰ってくるまで待っててくれ。
その言葉が実現される日はこなかった。
出かけた日はいつも明け方に帰り、シャワーを浴びたと思ったらベッドに倒れこむようにして眠る。
起きるのは大抵昼過ぎだった。そして、また慌てて出て行く。
朝、俺を見かけるたびに、バツが悪そうな、申し訳なさそうな色を浮かべていた。
「――――悪い」
「なにがですか?」
「言ったこと、守れてなくて」
ああ、なんだ。そんなことか。
「別に気にしてないですよ」
これは本当のことだ。歌えないVOCALOIDを真剣に調律しようとする人間がいるなら、見てみたい。
この人も、自分が言ったことを後悔しているのだろう。この二週間、夜に出続けてるのがいい証拠だ。
どう撤回しようかと考えているのだろう。
一瞬だけ、深いそうに眉根が寄せられた、気がした。瞬きをしたときには、いつも通りの表情になってしまった。
「……行ってくる」
なにか言いかけて、彼が踵を返す。
その背中を見ながら、追い出されるのかなとぼんやりと思った。
玄関の閉まる音が聞こえると、俺は日課になっているパソコンの前へと向かった。
フォルダを開き、ここ毎日のように再生しているファイルを開く。
紡がれる静かな、物悲しくて優しい旋律。
彼が作ったファイルを一通り聞いた後、この曲ばかり聞いていた。
どこか懐かしさを感じるような……。
そこまで考えて、自嘲気味に笑った。
俺―ツクリモノ―に懐かしさなんてあるわけがない。
あるのは詳細なメモリ。ただの記録。それなのに、懐かしさなんて……。
椅子に座り、机に頭をつける。耳がスピーカーに近づいたことで、音が直接頭に響いている錯覚を起こす。
――この音を聴きながら、止まることができたのなら、どんなに幸せなことだろう。
そう思いながら、ゆっくりと瞼を閉じた。
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