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VOCALOIDの青いお兄さん中心に好き勝手に書き散らしてるブログ。オフライン情報がメイン。 作品はピクシブにて公開中。ジャンル雑多になりつつあります。
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マスター視点







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 花冷えがひどかった翌日、バイト帰りに変なものを拾った。
 人間離れした青い髪に、青い瞳をもったアンドロイド。
 電信柱にもたれるようにうずくまり、ぴくりとも動かなかった。見かけたときはまるで寝ているようだとすら思った。
 科学が進んできたとはいえ、アンドロイドの存在はまだ珍しい。
 このあたりは比較的治安がいいとはいえ、スクラップにされて、部品を転売されるぞと脅したのだが、それすらも構わないとこいつは言った。
 寝不足と三ヶ月前から抱え込んでいたもやもやした気分も手伝ったのだろう。気付けば、アンドロイドのマフラーを引っ張り、部屋に連れ帰っていた。
 苛立って仕方なかった。身にまとっていた簡単に諦めてしまえるその雰囲気が。――俺はまだ、諦められないのに。



 リビングの端にあるソファーに座り込んでいるアンドロイドを見つめる。
 つれてきたときと同じようにぼんやりと、ただ宙を見ている。
 ……誰かに見せたほうがいいんだろうか……。でも、下手なところに連れて行くと解体されかねない危険性がある。
 見たところ、かなり精巧な作りだ。素人の俺ですらそう思うんだから、それなりに詳しい奴はもっと専門的な感想を持つだろう。

「なあ」

 俺の問いかけに、それはすぐ反応しなかった。数秒遅れて、俺のほうにゆっくりと顔を動かす。
 ぶつかる、青い瞳。人にはありえない輝き。様々な青が光の反射を受けて、綺麗だと瞬時に思わせる。

「……お前、自分の説明とか出来るのか?」

 アンドロイドのほとんどが操作方法を口頭で教えることが出来る。こいつにもそれを期待していると、しばらく考え込んだ後、口が開かれた。

「VOCALOIDシリーズ、KA-00-1『KAITO―カイト―』です。様々なジャンルの楽曲を歌い上げることが出来、またコーラスなどのサポートにも長けています」

 うずくまっていたときに聞いた声とは違う、機械的な声。

「VOCALOID?」
「はい」

 聞きなれない単語を問い返すと、それ―ーカイトは静かに頷いた。
 ……ちょっと待て、どこかで聞いた気がする。
 確か、まだ学校に行ってるときに誰かが持っていると言われて……。

「その、VOCALOIDって市販されてるのか?」
「現在、ME-00『MEIKO―メイコ―』とMI-01『ミク』が稼動していますが、市販はされていません」

 市販されてない……じゃあ、聞いたのは気のせいか?

「ですが、ME-00・MI-01に関しては試験期間として、ある人物の元に預けられています」
「名前は?」
「なんのです?」
「その、ME-00とMI-01の所有者のだよ」

 それがわかれば、なんとかこいつのこともどうにかなるかも知れない。しかし、その淡い期待はあっさりと打ち砕かれた。

「警備上の問題と個人保護のため、教えることは出来ません」

 淡々と言うカイトに「はあ?」と返してしまった。

「所有者とVOCALOIDを守るためです」

 変わらない淡々さに、俺はカイトを正面から見る。
 機械のこういう融通の利かなさが時折無性に腹立たしくなる。

「お前はその中に入らないのか?」
「はい?」
「その守られるVOCALOIDの中に、お前は入らないのかって聞いてるんだ」

 アンドロイド自体まだ珍しい世の中だ。所有者とアンドロイドを守るためだって言うのは納得できる。

「お前だって、VOCALOIDなんだろ? さっきそう言ったよな」
「俺は……」
「違うなんて言うなよ?」
 
 カイトの言葉を先取りし、目を細める。
 どこか苦しそうに眉根が寄せられ、深く息が吐き出された。

「……どうして、そんな風に言うんですか……」

 青い瞳が真剣な色を湛えて、俺を見てくる。
 ――ああ、やっぱり綺麗だな……。なにかの処理でもしているのか、時折、光が横切っては消えていく。
 つい見入ってしまう。
 いつまで経っても答えを返さない俺に、その瞳がゆらりと不安を浮かべた。

「……なんとなく、だな」
「なんとなく、で俺の邪魔をするんですか?」
「邪魔?」

 連れ帰るときの会話がふと過ぎる。……あれか、スクラップになっても構わないってやつか。

「お前はそれでよくても、作った人間はよく思わないだろう?」

 『作った人間』という部分に、カイトの体がかすかに震えたような気がした。

「とにかく、他のVOCALOIDの持ち主、教えろ。まだ保護だのなんだの言うなら、言うまでさっきの会話繰り返してやる」

 口を挟むまもなく続けてやると、カイトのうつろな目とは裏腹に唇がわずかに釣りあがった。

「わかりました」

 こうして、カイトから聞き出した持ち主はなるべくなら連絡を取りたくない人間の名前だった。

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