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VOCALOIDの青いお兄さん中心に好き勝手に書き散らしてるブログ。オフライン情報がメイン。 作品はピクシブにて公開中。ジャンル雑多になりつつあります。
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お待たせしました。ようやく話が動き始めました……。遅筆で申し訳ないです;












**********


 彼が言っていた通り寝不足から来る体調不慮だったようで、ベッドに下ろすなり寝息を立てていた。
その光景に唖然としたが、大したことじゃなくてよかった……と一息ついた。




「懐かしいな、それ」

 翌朝、いつものようにパソコンを立ち上げいつもの曲を聞いていたら、ふいにそんな言葉を投げられた。
 振り向くとマグカップを片手にドアにもたれるように、マスターが立っていた。
 昨夜よりかなり顔色はいい――が、まだ疲れたような感じは抜けてないように見える。

「体調は?」
「ああ……」

 大丈夫だ、と手で示される。
 ドアから体を離して、中に入ってくる彼になぜか少しだけ身構えてしまった。
 今まで見ていたものと違う空気が漂っていたからかもしれない。

「こんなんよく見つけたな……」

 どこか懐かしむように開いているファイルを見つめて、ぽつりと呟いた。

「……消せなかったんだろうな」

 聞かせることを目的としてない声に、マスターを見る。そこには曖昧な笑みが浮かべられていた。

「あの……」
「まだ音を作ってて楽しいって思えるときのだよ。確か、高校の終わりぐらいに作ったやつだ」

 俺の言葉の先を読み取ったのか、そう説明する彼の横顔は表現しづらかった。
 悲しんでいるようなまぶしそうな、遠い顔。
 リピートされる音が消される。閉じられるブラウザ。色を失っていくモニタに、思わず彼の腕を掴んだ。

「なん……」
「この曲がいいです」

 訝しげな視線を跳ね除けるように、口早に告げる。

「は?」
「歌うなら、この曲がいいです」

 はっきりという俺に、困ったような戸惑うような色が浮かびうつむかれる。……だめなんだろうか。
 彼の作った曲をほぼ全部聞いたけれど、初期のころに作られた曲のほうがとても好きだと思ったから。
 初めて聴くのに、どこか懐かしさを覚えるメロディ。優しいのに、時折悲しさが含まれているような音たち。

「……焼き直しでいいのか?」

 しばらくの沈黙のあと、ぽつりとした呟きとともに彼が顔を上げた。

「貴方が作ったものの中で、1番好きだと思ったんです」

 この曲に詞がついて、ウタになるのならどんな風になるのだろうと思っただけだ。そして、それを聴いてみたいとも。

「新しく作らなくてもいいんだな?」
「歌えるようにしてくれるんですよね?」

 厳しい眼差しで問うてきたものに答えず、質問で返す。
 今まで調整されなかったことを俺自身はそんなに気にしてはいない。けれど、彼のほうがそうではなかったらしく、ぐっと押し黙った。

「それなら、俺が好きだと言ったものを出すのが手っ取り早いんじゃないですか?」

 機械だから、差し出されたものはどんなものでも歌う。たとえ、それが自分に合わないものでも。気に入ったものを歌えたときは、体中が幸福で満たされているような感覚だった。
 言葉に詰まったままの状態で、マスターが推し量るような視線を向けてくる。
 どれくらい、そうしていただろうか。
 ふっ――とマスターの視線が外され、息を吐くように薄い笑みが唇に刻まれた。

「二週間前とは別人みたいだな」
 
 苦笑交じりに呟きの意味がわからず、黙ることしか出来ない。

「はっきり言って、編曲して詞つけて……ってやるより、一から作ったほうが早いかも知れないぞ?」
「曲が出来上がるまで、待てますよ。貴方とこうやってまともに会話するのに、ここまで待たされたんですから」

 さきほどの仕返しというつもりはないが、どれくらいでも待つつもりだというのを伝えるにはこれが最適だと思った。
 実際、こうして顔を合わせるのは彼に拾われた日以来だ。

「……結構言うな、お前」

 大きなため息をつく彼に、

「こういうやりとりも、必要なことらしいですから」

 そう薄笑みを浮かべた。
 音をもらうだけじゃなく、歌をもらうだけじゃなく、その人と話して渡された歌の意味をより深く知ることが出来るように。
 俺の言葉を受け取ったあと、一瞬だけ瞳が見開かれた。

「どうか、しました?」

 そんな反応されるとは思っていなくて、つい訊いてしまう。

「いや、笑えもするんだなって思っただけだ」

 何気なく言われた言葉に、自然と手が口元をなぞる。緩やかな曲線を描くそこは、確かに笑っていると言うことになるのだろう。
 ――――笑え、てた……。
 あのとき、もう笑えない、なにも表現することは出来ないと思っていたのに……。

「とりあえず、これを編曲しなおし……。……あー……」

 もう一度開かれたデータを見つめていたマスターの眉間に皺が寄る。
 どうしたのかと見つめると、

「歌うって、詞が必要なんだよな?」

 そんな当たり前の質問を投げられた。

「え、あ、はい。主旋律のハミングとかやったこともありますけど、出来れば詞のほうが歌いやすいです」

 質問の意味を理解するまでに、一瞬だけ時間を要した。
 俺の答えを受け取ると、深い深いため息が吐き出された。
 ――――もしかして……。

「詞をつけたことがなかったりしますか?」

 思い浮かんだことを訊ねると、難しい表情のままマスターが頷いた。
 曲だけ作る人もいることは知っている。そういう人たちにとって、VOCALOIDなんて無縁の存在なんだろうなと聴いたときに思った。
 …………大丈夫なんだろうか?
 そんな不安が頭を駆け巡る。歌えないVOCALOIDと本来ならVOCALOIDを必要としない存在。
 トン、と肩に手が置かれる。

「もう少し待ってるか?」
「え?」
「今月中に仕上げる」

 今月、中? でも、そんなに日数は……。
 戸惑いを浮かべる俺に、

「やれないことは、多分ない。待たせてばかりで悪いけど……」

 ――――これ以上、待たせないから。 

 そういって、彼は笑った。歌えるようにしてやる、といったときと同じ強い瞳で。
 その瞳に誘われるように、俺はしっかりと頷いて返した。  
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