VOCALOIDの青いお兄さん中心に好き勝手に書き散らしてるブログ。オフライン情報がメイン。
作品はピクシブにて公開中。ジャンル雑多になりつつあります。
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出会い編終了。長くなったので、二分割しています。
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俺に『製品』としての説明をしたときのような無表情。
自分のことなのに、どうしてこうも興味がなさそうなのか。
連れてくる前の会話を思い出す。
『スクラップになっても構わない』と言った瞳。
――諦めと強い後悔、みたいな感情を浮かべていた。
機械にそんな感情なんて持てるのか、詳しくはわからない。
翌日に、通勤路でスクラップになりました、と出て来られてもいい迷惑だと言ったのも事実だ。
あまりの投げやりっぷりに苛立ったのもある。
でも、強引に連れ帰ったのは、どこか俺と同じような気がしたからだ。
どこにも行けなくて、道が見えなくて。自分が立っている場所すらわからないから、歩くために動くことが出来ない。
八方塞がりな状況に加え、漠然とした無気力感。――ただ淡々と流れる時間に身を任せ、終わりのほうからこっちへ来るのを待っている。
一番楽で、なんの解決にもならない道。立ち止まっているだけの……。
堂々巡りを始めた思考を打ち破るように、携帯電話が鳴った。
慌てて耳に宛てながら玄関に向かう。
「初城迎えに行ってくるから、大人しくしてろよ?」
カイトが頷いたのを確認してから、俺は部屋を出た。
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朝の駅ということもあり、初城が見つかるか不安だったが、思いの外あっさりと見つけられた。
初城の同行者――VOCALOIDたちがやたらと目立っていたからだ。
緑色の長い髪を耳の上で二つに縛っている少女。服装は普通だが、髪の色が人にはありえない。
もう一人。栗色のショートに同じ色の瞳。
外見は至って普通……というのはおかしいな。
体のラインを余す事なく表現している服装。またそれが似合っている分、緑髪の少女とは違う意味で人目を引いている。
「おっ、やっほー!」
その二人の間に立っていたショートカットの少女が俺に向かって手を振っている。
……すごく近寄りづらい。出来ればこのまま帰りたくなるほど。
「君ねぇ、迎えに来るの遅いよー?」
全然そんなことを思ってない表情で初城が俺を見る。
「あー、悪い。ちょっと」
「まあ、ミクとメイコ以外のVOCALOIDに会えるからいいけどね~」
鼻歌混じりに呟く初城に、気付かれないように息を吐いた。
「……お前さ、学校いるときとなんか違くないか?」
もっとこう協調性があるヤツじゃなかったか? 自分の意見をただ通すんじゃなくて……。
「ああ、学校では多少猫被ってるよー」
普通のことじゃない?
首を傾げながら問われ、「さぁ」とだけ返した。
俺がそれなりの付き合いしかしないのと同じことなのだろうか?
「ま、そんなことより早く君んち行こっか?」
にっこりと笑って言う初城に俺は歩き出した。
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玄関を開けて中に入る。
「外見でも思ったけど、結構いいトコ住んでんのね。防音もしっかりしてる?」
「それなりには」
一応、昔から結構大きな音を出してても苦情を言われたことはない。
「だよねー。――で、その拾ったっていうVOCALOID君は?」
「いなくなってなければ、ソファに座ってる」
大人しくしてろ、とは言ったものの、本当に聞いているかはわからない。――ああでも、機械だから人間の言うことは聞いてるのか?
「わー! ホントにいるー!」
リビングに先に通した初城から歓声が上がった。
「あら、カイトじゃない」
「お久しぶりです! カイトさん♪」
それまで黙っていた初城のVOCALOIDたちが口を開く。
歌のために作られただけあって、この二人の声も耳に心地いい。
「……やぁ、メイコにミク。久しぶり」
二人の姿を見て、どこか安心したようにカイトが微笑む。
「半年振りぐらいかしらね?」
「もうそんなになる?」
「なりますよ! 私たちがマスターのところに預けられたのって、まだ年が明ける前でしたから」
俺と話しているときよりも、幾分かくだけた口調。
「あー、そっか……色々あったから忘れ……」
「そういえば、あんた博士と一緒にいたの?」
メイコから切り出された言葉に、カイトの体がかすかに震えた――ような気がした。
「そっか、カイトくんはあの事故のときまだ研究所にいたんだよね?」
ミクの影からひょっこりと初城が顔を出して、まばたきをしながらカイトを見る。
「え、あ……はい……」
海の浅い場所みたいだった瞳が暗くなり、そのままうつむかれた。
「事故?」
「ちょ、ニュースにもなってましたよ!?」
非難めいた初城の視線に「知らないものは知らない」と言い返す。
「うっわー、信じられない……」
ミクの背中に頭を押し付けて、「あんなに大きく報道されてたのに……」などとほざいている。
「私たちが作られた研究所で事故があったんです。結構大きな」
張り付いている初城を特に気にも留めず、ミクが教えてくれた。
そういったところにはつきものの爆発事故が合ったらしい。被害はそんなにひろがらなかったのだが、何人かのけが人が出た。幸いなことに死者も出なかったらしい。
三ヶ月経った今、ようやく落ち着き様々な業務を再開できるようになっているようだ。
「あのときはびっくりしたどころじゃなかったわよ」
大きく息を吐くメイコが眉根を寄せて呟く。
カイトはというと、うつむいたまま顔を上げることはなかった。
「まあ、暗い話題はやめやめ。とりあえず……」
よっと掛け声を上げながら、初城がようやくミクから離れまっすぐに立つ。
「カイトくん、ミクとメイコと歌ってもらってもいい?」
「――――え?」
初城のいいだした言葉にカイトが顔を上げた。そこにあったのは驚いた表情だった。
「VOCALOIDの扱い知りたいなら、歌ってもらいながらのが説明しやすいの」
いいかな? とじぃっと見つめる初城に、カイトは一向に答えを返そうとしない。
「こぉら、しっかりしなさいよ。長男でしょ?」
返事をしないカイトに痺れを切らしたのか、メイコが思い切り背中を叩く。
「三人で歌うのなんて、すごい久しぶりな気がします!」
見るからに楽しみ、といったようにミクが可愛らしく顔の前で手を合わせた。
「なににしますか?」
「博士のところで調整してた歌がいいんじゃない? あたしたち全員歌えるし」
「それで、大丈夫ですか? カイトさん」
「え、あ……」
「ごちゃごちゃ言ってないで、ほら歌う! いくわよー?」
ミクとメイコが息を吸い、歌い始める。
女性らしい高音がミク、力強い声がメイコ。上手くバランスが取れた旋律。
メイコが目線でカイトに合図を送る。意を決するようにカイトが瞳が閉じ、口を開いた。――と。
「…………っ」
期待していた歌声は聞こえなかった。喉元を押さえてカイトがうずくまり、悔しそうに唇をかみ締める。
「ちょっと、どうしたのよ!?」
驚いたのは俺だけじゃなかったようだ。メイコが慌てながら、カイトの顔を覗き込む。
ミクと初城は信じられないというようにその光景を見ていた。
悔しそうな表情が徐々に悲愴なものへと変わっていく。
「カイトさん、大丈夫……ですか?」
恐る恐るといったように話しかけるミクに、カイトは曖昧な笑みを浮かべた。
そして、
「……歌え、ないんです」
ぽつりと零した。
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