VOCALOIDの青いお兄さん中心に好き勝手に書き散らしてるブログ。オフライン情報がメイン。
作品はピクシブにて公開中。ジャンル雑多になりつつあります。
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ミクとめーさんのマスターは話の都合上、名前を出しています。
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3回、4回、5回……。
携帯から聞こえるコール音を無駄に数えてしまう。
出て欲しいという思いとこのまま出なければいいという思いが入り混じる。
カイトの口から出たのは、三ヶ月前まで俺が通っていた専門学校にいた同期生の名前だった。
初城美也子―ハツシロミヤコ―。
課題として学校全体で出したコンテストで、見事グランプリをとった人間。
その副賞というわけではないが、どこかの研究機関からVOCALOIDの試用を依頼されたという噂があった。
よく覚えていなかったのは、俺が学校を辞めることしか考えていなかったせいだろう。
音と音を繋いで、自分にしか表現できない世界を作るのが好きだった。
作り始めた当初は誰かに認めて欲しいなんていう気持ちを抱いたことはなかった。
一人でも気に入ってくれればそれでいいと思っていた。
学校に入学したのは、同じ感覚の仲間が欲しかったからかも知れない。
一期に一度ある学院内のコンペに提出するものの、上位は取れずにいた。
なんかしらの賞を獲りたい、とどこかで思い始めていたんだと思う。
そのうち、自分がなんのために音を作りたかったのかわからなくなった。
目標というか道しるべみたいなものがないと、なにも出来なくなると聞いたことはあった。
まさか、自分がそんな状態になるとは思わなかった。音を作れなくなれば、学校にいる必要性が感じられず、学校を辞めた。
辞めた決定打が、初城の受賞だったというのもある。こっちの勝手な思い込みで連絡を取りたくないだけだ。
『はいはーい、初城ですー』
ブツッとコール音が途切れ、代わりに少し高い声が聞こえた。
「ああ、初城?」
『そうですよー、久しぶり』
「久しぶりって……誰かわかるのか?」
『わかるよー。いざってときのために、クラス全員のアドレスと番号聞きまわったはずだから』
覚えてない? と聞かれるがまったく記憶にない。
『なにか用でもあったんじゃないの?』
入学当初のことを思い返していたが、その言葉に電話をかけた目的を思い出す。
「……お前のところにさ、VOCALOIDいるだろ?」
『あ、うん。いるよ、二体……っていうか二人』
「今から、つれてきてもらってもいいか?」
『…………はい?』
思い切り間の抜けた声が返ってきた。当然だろう。在学していたときもあまり接点はなかった人間に、いきなりそんなことを言われたら。
『……常識で物言ってる? 今何時だと思ってるわけ?』
やや怒りを込められた初城の言い方に時計を見る。7時を少し過ぎたところだ。
『大体、男が女の子誘うって……』
「VOCALOIDがいるんだ」
『は?』
長くなりそうな言葉を遮って、本題を言い出す。疲れた体に長話を聞かされてはたまらない。
『VOCALOIDがいるって、そこに?』
「ああ」
『どうして?』
「……多分、拾った、ていうことになるのか?」
『拾ったぁっ!?』
鼓膜が破れるかと思うほどの大声が、耳を襲う。咄嗟に電話を離し、耳を押さえた。
『ちょ、VOCALOIDってそんな落ちてるものなの!?』
それは俺が一番聞きたい。初城の口ぶりから、結構貴重なアンドロイドみたいだし、それがどうして近所に座り込んでいたのか……。
「細かいことは俺にもわからない。とにかく、扱い方がわからなくて、それで所有してるヤツに聞こうと思ってるんだよ」
『あー……』
途方に暮れたようなどうしようもない感が電話越しに漂ってくる。……現状で俺も覚えがある感覚だ。
『……とりあえず、二人連れてそっち行くよー、大変そうだし。――で、君んちどこよ?』
最寄り駅を初城に伝え、そこに付いたら迎えにいくから連絡をよこせと電話を切った。
深く息を吐いて、ソファーに座り込む。
俺が電話をしている間、ずっとカイトは黙って突っ立ていた。
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