VOCALOIDの青いお兄さん中心に好き勝手に書き散らしてるブログ。オフライン情報がメイン。
作品はピクシブにて公開中。ジャンル雑多になりつつあります。
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書けば書くほど長くなっていくお話……見切り発車はよくないですね;
白を基調とした内装。静謐な空気に満たされた場所。
すれ違う人たちは規則正しい歩みで、時折、消毒液の匂いが鼻をかすめた。
「――大丈夫か?」
いつの間にか俯いたらしい俺の顔を覗き込みながら、マスターが声をかけてくる。
「あ、はい……大丈夫、です……」
そう返すものの、緊張と不安で喉がひりついている。
博士が生きていたのは嬉しいことだ。でも、以前のように接してもらえるだろうか……。見捨てて逃げた俺に。
教えてもらった病室のドアをじっと見つめる。さっきから同じことばかりが頭を回っている。
もし、博士に否定されたら……。
出口のない思考にがんじがらめになっていた耳に、深いため息が届いた。
隣に立っていたマスターが焦れたのか、俺の背中を押すように手を当てていた。
「このまま突っ立てても変わらないだろ?」
確かに、マスターの言うとおりだ。ここでこうしていても、なにも変わらない。ただ時間だけが過ぎていく。
――――目を閉じて深呼吸をひとつ。
「……ありがとう、ございます」
小さく呟くと、病室のドアをゆっくりと開けた。
* * * * *
ドアの向こうは更に白く、やたらと無機質な空間だった。
入ってすぐのところには衝立があり、中が見えないようになっていた。
「リン、早かったね、今度は迷子にならずに済んだ?」
――柔らかい、穏やかな声。
この世界を認識したときから――その前からずっと聞いていた、声。
もう聞けないと思っていた声……。
「リン?」
いつまでも動かない俺たちを不審に思ったのか、博士の声に訝しげな色が混ざる。
衣擦れの音に、意を決して俺は口を開いた。
「……違います、リンじゃなくて……」
そこで言葉が切れてしまった。自分の名前を言おうか迷ったせいだ。一瞬の躊躇のあと、
「――カイト……?」
確認をするような博士の呟きが耳に届いた。
博士の声に弾かれるように顔を上げるものの、答えることができなくてまたすぐに俯いてしまう。
「――――っ!?」
そんな煮え切らない態度を取っていた俺の手をマスターが掴む。
びっくりしてマスターを見ると、真剣な瞳とぶつかった。――そうだ、ここまできたんだ。もう逃げたくは……。
小さく息を吐くと、意を決して口を開いた。
「はい……カイト、です」
「本当に……?」
少し弱くなった博士の声に、「はい」と返しながら衝立の向こうへと歩き始める。
ベッドの端が見えると、緊張が強くなる。マスターは俺についてくるように、後ろにいる。
衝立を完全に越してしまうと、ベットの端が見えた。白いベッドに横たわる、影を見て俺は息を吐いた。
あの日まで毎日毎日見ていた顔。怒ったところを見たことのない、穏やかな整った顔。
安堵や懐かしさが込み上げてきて言いたいことがあるのに、うまく言葉に出来ない。
まともに博士の顔が見られず、また俯いてしまう。
言わなきゃいけないのに。なにか――謝らないと――。
「よかった、無事だったんだね」
心底、安心したような博士の呟きに俺はのろのろと顔を上げた。
視界に映った博士の顔には、俺の好きな表情があった。優しく見守ってくれていた微笑み。
その顔を見るのが大好きで、ずっとそばで守りたかった。
「――怒って、ないん、ですか……?」
口をついて出た言葉は情けないほど震えていた。
「怒る? どうして?」
微笑んだまま首を傾げる博士の影が、ゆらりと揺れた。
「だって、俺、貴方をっ、置き去りにして……」
逃げたのに。置いて行ったのに!
「……びっくりしたんだよね、カイトは」
瞼を伏せて子供に物語を聞かせるかのように、柔らかく博士が言葉を続ける。
「僕が死んでしまったと思って――驚いて、認めたくなかったんでしょう?」
――――だから、その場から離れてしまった。
「でも、ちゃんと確かめれば、他の人に聞けばそんなことないってすぐにわかったのに……!」
「カイト」
「なのに、それもせずに俺は怖くて、血だらけの貴方を見ているのが怖くてっ!」
命令違反をして、大切な人を傷つけて――失うのが怖くて!
気付いた時には知らない場所をふらついていた。
「カイ……」
「やーっと帰ってこれたぁー!」
どんよりとした空気に似つかわしくない明るい声が、ドアの開閉音と共に病室に響く。
「だから、変に寄り道せずにまっすぐ帰ろうって言ったんだよ」
「だって、ずっと病院にいたら息が詰まっちゃうじゃない。それに、お菓子食べたかったし……」
「……あんま甘いもんばっか食ってると、太るぞ」
「! なんてこというのよ! VOCALOIDなんだからそんなことありません!」
「つか、あんま騒ぐなよ。博士の傷に障る」
「……人のこといえないでしょ」
聞こえてくるやりとりにあっけにとられていると、衝立から小さな影が飛び出した。
金色の髪をした少年と少女。こうして動いているのを見るのは初めてだが、忘れるわけはない。
「――リンとレン?」
ぽつりとした俺の問いかけに、二人はきょとんとしてこちらを見る。
「お客さん?」
「俺らのこと知ってるってことは、ラボの関係者だよな?」
首を傾げるリンに対して、レンがじろりとした視線を寄越す。
「――二人が会いたいって言ってた人だよ」
二人の態度の違いにくすくすと笑いながら博士が呟く。
「俺たちが」
「会いたがってたって、……もしかして!」
『カイト――!?』
リンとレンの声が綺麗に揃った。そのあとの確認するように博士を見る行動も同じタイミングだった。
二人の視線が注がれた博士は笑ったまま、首を縦に動かした。直後――。
リンの歓声が上がって、抱き着かれた。
いきなりのことにバランスを崩し、倒れそうになるのをなんとかこらえる。
「ホントのほんっとうにカイトなの!?」
「あ、うん……」
覗き込んでくる水色の瞳が俺の答えにますます大きくなって、きらきらと揺れる。
「ずっとずっと会いたかったの!」
顔いっぱいに元気な笑みを広げながら、リンが抱き着いている腕に力を込める。
「え、あの……」
「俺たちのこと、助けてくれたんだろ? 博士から聞いた」
はしゃぐリンにどこか呆れた視線を送りながら、レンがそう口にする。
「博士も諦めてたのに」
「だからね、ずっと会いたかったの!」
落ち着いたレンの続きを引き継ぐリンの上ずった声についていけず、俺はまばたきをすることしか出来ない。
「助けてくれて、連れてきてくれてありがとう」
無邪気な笑顔を浮かべたリンの言葉に、俺の動きがぴたりと止まる。
「無謀っていうか無茶っていうか……でも、サンキュな」
照れくさそうに少しそっぽを向くレンの言葉に、俺はゆっくりと博士を見た。
穏やかな、やさしい笑顔。
「僕からも――二人を連れだしてくれてありがとう。カイト」
あちらこちらに傷があって――それは、俺が命令を無視して二人を連れ出そうとしなければ、つかなかった傷で。
でもそれがなければ、二人は――リンとレンはまだここにはいなくて――。
「――――お、れ……」
「うん」
「貴方を置いて逃げたことを怒られると思って……」
「うん」
「命令違反をして、製作者を危険な目に合わせて――だから、破棄されると……貴方に捨てられると思って……」
「そんなことしないよ」
ひどく馬鹿なことを聞いた。――博士の様子はそんな感じだった。
「だって、君は僕の大切なVOCALOIDだ。――ここにいるリンとレンと同じように」
視界がゆらゆらと揺れて、見づらくなっていく。
「あの時、諦めていた二人を連れてきてありがとう。カイト」
ゆっくりとした優しいその声に、涙があふれた。
揺らぐ視界の向こうで笑顔が戸惑いに変わるのが見えた。
「カ、カイト!?」
驚きで構築された声に「すみません」と返すのが精いっぱいだった。
すれ違う人たちは規則正しい歩みで、時折、消毒液の匂いが鼻をかすめた。
「――大丈夫か?」
いつの間にか俯いたらしい俺の顔を覗き込みながら、マスターが声をかけてくる。
「あ、はい……大丈夫、です……」
そう返すものの、緊張と不安で喉がひりついている。
博士が生きていたのは嬉しいことだ。でも、以前のように接してもらえるだろうか……。見捨てて逃げた俺に。
教えてもらった病室のドアをじっと見つめる。さっきから同じことばかりが頭を回っている。
もし、博士に否定されたら……。
出口のない思考にがんじがらめになっていた耳に、深いため息が届いた。
隣に立っていたマスターが焦れたのか、俺の背中を押すように手を当てていた。
「このまま突っ立てても変わらないだろ?」
確かに、マスターの言うとおりだ。ここでこうしていても、なにも変わらない。ただ時間だけが過ぎていく。
――――目を閉じて深呼吸をひとつ。
「……ありがとう、ございます」
小さく呟くと、病室のドアをゆっくりと開けた。
* * * * *
ドアの向こうは更に白く、やたらと無機質な空間だった。
入ってすぐのところには衝立があり、中が見えないようになっていた。
「リン、早かったね、今度は迷子にならずに済んだ?」
――柔らかい、穏やかな声。
この世界を認識したときから――その前からずっと聞いていた、声。
もう聞けないと思っていた声……。
「リン?」
いつまでも動かない俺たちを不審に思ったのか、博士の声に訝しげな色が混ざる。
衣擦れの音に、意を決して俺は口を開いた。
「……違います、リンじゃなくて……」
そこで言葉が切れてしまった。自分の名前を言おうか迷ったせいだ。一瞬の躊躇のあと、
「――カイト……?」
確認をするような博士の呟きが耳に届いた。
博士の声に弾かれるように顔を上げるものの、答えることができなくてまたすぐに俯いてしまう。
「――――っ!?」
そんな煮え切らない態度を取っていた俺の手をマスターが掴む。
びっくりしてマスターを見ると、真剣な瞳とぶつかった。――そうだ、ここまできたんだ。もう逃げたくは……。
小さく息を吐くと、意を決して口を開いた。
「はい……カイト、です」
「本当に……?」
少し弱くなった博士の声に、「はい」と返しながら衝立の向こうへと歩き始める。
ベッドの端が見えると、緊張が強くなる。マスターは俺についてくるように、後ろにいる。
衝立を完全に越してしまうと、ベットの端が見えた。白いベッドに横たわる、影を見て俺は息を吐いた。
あの日まで毎日毎日見ていた顔。怒ったところを見たことのない、穏やかな整った顔。
安堵や懐かしさが込み上げてきて言いたいことがあるのに、うまく言葉に出来ない。
まともに博士の顔が見られず、また俯いてしまう。
言わなきゃいけないのに。なにか――謝らないと――。
「よかった、無事だったんだね」
心底、安心したような博士の呟きに俺はのろのろと顔を上げた。
視界に映った博士の顔には、俺の好きな表情があった。優しく見守ってくれていた微笑み。
その顔を見るのが大好きで、ずっとそばで守りたかった。
「――怒って、ないん、ですか……?」
口をついて出た言葉は情けないほど震えていた。
「怒る? どうして?」
微笑んだまま首を傾げる博士の影が、ゆらりと揺れた。
「だって、俺、貴方をっ、置き去りにして……」
逃げたのに。置いて行ったのに!
「……びっくりしたんだよね、カイトは」
瞼を伏せて子供に物語を聞かせるかのように、柔らかく博士が言葉を続ける。
「僕が死んでしまったと思って――驚いて、認めたくなかったんでしょう?」
――――だから、その場から離れてしまった。
「でも、ちゃんと確かめれば、他の人に聞けばそんなことないってすぐにわかったのに……!」
「カイト」
「なのに、それもせずに俺は怖くて、血だらけの貴方を見ているのが怖くてっ!」
命令違反をして、大切な人を傷つけて――失うのが怖くて!
気付いた時には知らない場所をふらついていた。
「カイ……」
「やーっと帰ってこれたぁー!」
どんよりとした空気に似つかわしくない明るい声が、ドアの開閉音と共に病室に響く。
「だから、変に寄り道せずにまっすぐ帰ろうって言ったんだよ」
「だって、ずっと病院にいたら息が詰まっちゃうじゃない。それに、お菓子食べたかったし……」
「……あんま甘いもんばっか食ってると、太るぞ」
「! なんてこというのよ! VOCALOIDなんだからそんなことありません!」
「つか、あんま騒ぐなよ。博士の傷に障る」
「……人のこといえないでしょ」
聞こえてくるやりとりにあっけにとられていると、衝立から小さな影が飛び出した。
金色の髪をした少年と少女。こうして動いているのを見るのは初めてだが、忘れるわけはない。
「――リンとレン?」
ぽつりとした俺の問いかけに、二人はきょとんとしてこちらを見る。
「お客さん?」
「俺らのこと知ってるってことは、ラボの関係者だよな?」
首を傾げるリンに対して、レンがじろりとした視線を寄越す。
「――二人が会いたいって言ってた人だよ」
二人の態度の違いにくすくすと笑いながら博士が呟く。
「俺たちが」
「会いたがってたって、……もしかして!」
『カイト――!?』
リンとレンの声が綺麗に揃った。そのあとの確認するように博士を見る行動も同じタイミングだった。
二人の視線が注がれた博士は笑ったまま、首を縦に動かした。直後――。
リンの歓声が上がって、抱き着かれた。
いきなりのことにバランスを崩し、倒れそうになるのをなんとかこらえる。
「ホントのほんっとうにカイトなの!?」
「あ、うん……」
覗き込んでくる水色の瞳が俺の答えにますます大きくなって、きらきらと揺れる。
「ずっとずっと会いたかったの!」
顔いっぱいに元気な笑みを広げながら、リンが抱き着いている腕に力を込める。
「え、あの……」
「俺たちのこと、助けてくれたんだろ? 博士から聞いた」
はしゃぐリンにどこか呆れた視線を送りながら、レンがそう口にする。
「博士も諦めてたのに」
「だからね、ずっと会いたかったの!」
落ち着いたレンの続きを引き継ぐリンの上ずった声についていけず、俺はまばたきをすることしか出来ない。
「助けてくれて、連れてきてくれてありがとう」
無邪気な笑顔を浮かべたリンの言葉に、俺の動きがぴたりと止まる。
「無謀っていうか無茶っていうか……でも、サンキュな」
照れくさそうに少しそっぽを向くレンの言葉に、俺はゆっくりと博士を見た。
穏やかな、やさしい笑顔。
「僕からも――二人を連れだしてくれてありがとう。カイト」
あちらこちらに傷があって――それは、俺が命令を無視して二人を連れ出そうとしなければ、つかなかった傷で。
でもそれがなければ、二人は――リンとレンはまだここにはいなくて――。
「――――お、れ……」
「うん」
「貴方を置いて逃げたことを怒られると思って……」
「うん」
「命令違反をして、製作者を危険な目に合わせて――だから、破棄されると……貴方に捨てられると思って……」
「そんなことしないよ」
ひどく馬鹿なことを聞いた。――博士の様子はそんな感じだった。
「だって、君は僕の大切なVOCALOIDだ。――ここにいるリンとレンと同じように」
視界がゆらゆらと揺れて、見づらくなっていく。
「あの時、諦めていた二人を連れてきてありがとう。カイト」
ゆっくりとした優しいその声に、涙があふれた。
揺らぐ視界の向こうで笑顔が戸惑いに変わるのが見えた。
「カ、カイト!?」
驚きで構築された声に「すみません」と返すのが精いっぱいだった。
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