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VOCALOIDの青いお兄さん中心に好き勝手に書き散らしてるブログ。オフライン情報がメイン。 作品はピクシブにて公開中。ジャンル雑多になりつつあります。
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久々の更新。まだまだ後ろ向きKAITOさん

 微調整やデータの打ち込み、歌詞の言葉あわせ。その作業が思ったほどかかったらしく――マスターの疲れも相当なものだったせいだ。
 ちゃんと意識がはっきりしている状態で聞きたいと言われ、一日は休養のために使われた。
 打ち込まれたデータを読み込むために、ケーブルが渡される。
 黙って受け取り、耳の後ろにある差込口に持っていく。――カチリ、と音がするまでなぜだかひどく緊張した。
 深呼吸を一つしてから、マスターに向かって頷いた。
 彼の指が、キーボードの上を滑り、離れた――――と。
 
「…………っ」

 久しぶりに流れてくる音の洪水に軽い眩暈を覚える。――――ああ、でも。
 とても綺麗なメロディ。壊さないようにそっと乗せられた言葉たち。
 優しい、優しい、オト。

「おかしなところがあったら、遠慮なく言えよ。すぐ直すから」

 読み込みが終わるまで待っていたマスターが、オレをじっと見ながらそう零す。

「大丈夫です」

 薄く笑ってケーブルを渡すと、静かに息を吸い込んだ。

 ――――大丈夫だ、きっと、歌える。きっと。

 俺の中に入ったばかりの音が静かに集まりだす。
 積み重なり連なる。
 出口を求めて溢れる、オトの波―――。
 
 ――――あ。

 聞こえる、耳に馴染んだ声。博士が作ってくれた、好きだと言ってくれた――俺のこえ。
 どれくらいぶりに聞いただろう。話す声とは多少違う、俺の――。
 歌えたことが自分でも信じられなくて、何度かつっかえそうになった。
 本来なら声が途切れたところで歌うのをやめ、最初からやり直すのだが、今回はそうしなかった。
 マスターに止められなかったというのもあるが、俺自身が止めたくなかった。
 喉を震わせながら、紡がれる声。それがメロディと合わさると、体の奥でなにかが弾ける。
 じっとしていられないような、満ちていくような――そんな感覚。
 VOCALOIDとして見るなら、褒められた歌い方ではなかった。起動したてだとしても、もっとマシなはずだ。
 それでも、初めて歌った時と同じ気持ちになっていた。
 最後のフレーズを終え、一瞬だけ俺の中が空っぽになる。

「――歌えたな」

 静かな――けれど、どこか楽しげな声に顔を上げる。
 からかう子供のような、優しい笑みを浮かべるマスターと目が合う。

「お、れ……歌え、て……」
「ところどころ、たどたどしかったけど歌えてたぞ?」

 頭と心がついて行かない。
 体中を巡る歓喜に自分の口元を押さえる手がかすかに震えている。

「メインはこんな感じで、こっから調整するのか……」

 ぶつぶつと独り言のようなものを呟きながら、マスターが椅子を反転させてPCと向き合う。
 そこには俺のエディッタが広がっている。

「――――カイト」
「……あ、はい!」

 余韻のせいでやや反応が遅くなる。慌ててマスターのそばに行くと、

「簡単な操作方法、教えてもらえるとありがたい」

 モニタを指さしながらそう言われた。

 ――――ああ、そうか。初めて見る人のほうがまだ多いんだ。

 そんなことがぼんやりとよぎった。今まで、俺の周りにいた人たちは当たり前のように調整していたから。
 
「ええっと、待ってくださいね。……えっと、これが言葉のつなぎを調整するもので、こっちが声の高低です」
「声? 音程じゃなくて?」
「はい。今の声は通常設定ですが、低くしたり高くしたりも出来ます」
「へぇ……面白いのな……」
「どんな歌でも問題なく歌えるように、と作られてますから」

 自分の中にあるマニュアルと照らし合わせながらマスターに説明すると、彼の瞳がゆっくりと細められる。そして――。

「――――よかったな、歌えて」

 ぽつり。
 唐突に落とされた言葉に、反射的にマスターのほうを見る。そこには声音と同じぐらいの優しいまなざしがあった。
 俺が歌えたことを、俺と同じように受け止めてくれているかのような表情だった。
 ――どうして、そのときの俺がそんな行動を取ったのかはわからない。
 ただ、お互いに気付いたときにはマスターに口づけていた。

「…………っ!! す、すみませんっ!」

 自分のしたことに気付き、急いでマスターから離れた。
 なにが起こったのかわからない。そう言いたげにマスターが何度もまばたきを繰り返す。

 …………………………。
 ………………………………。

 ――――沈黙。妙な空気が漂い始める。

 俺自身、どうしたらいいかわからず、視線を動かすことすら出来ない。
 戸惑う俺とは対照的に、マスターの目線は伏せられたり上に向けられたりしていた。
 
「……………………」

 ――はっきり言って、いたたまれない空気だ。
 なんで、あんなこと……。
 ぼんやりとしたまま自分の唇に触れる。
 ――――暖かかった、な……。

「――カイト」
「は、はいっ!?」

 予想外の静かな声に、つい上ずった声で返事をしてしまった。
 真っ直ぐに向けられてるマスターの視線が、どこか痛い。

「……お前、さ……」

 マスターが次の言葉を口にしようとした瞬間、PCから聞き慣れない音が流れ出した。
 反射的に二人の視線がPCへと注がれる。
 先ほどまでなかったウィンドウがそこにはあり、初城さんの名前が映し出されていた。

「…………ちょっと待て。なんでこっち知ってるんだ……?」

 腑に落ちない、そんな空気を纏わせながらマスターが通話のボタンを押す。

「……もしも――」
『ああっもうっ! やっと出た! なにやってたのよ!?』

 聞こえてきたのは初城さんの声ではなく、どこか怒っているかのようなメイコの声だった。

「――っ、いっきなり怒鳴んな!」
『カイト、そばにいる!?』

 急いでマイクをつないだマスターがやや怒鳴りながら返すが、それをさらりと無視してメイコは言葉を続ける。

「あ、いるけど……なにかあった?」
『博士の意識が戻ったみたいなのよ!』
「え……」

 博士の、意識が……?

「!? それ、本当なのか?」
『こんなんで嘘ついてどうするんのよ!』
『めーこさん落ち着いて……』
『あ、メイコ。ちょっと代わってー』

 確認するようなマスターに食って掛かるメイコを宥めるミクと初城さんの声。
 
『いきなりこっちにかけてごめんねー。携帯のほうに何回かかけたんだけど……』
「リビングに置きっぱなしにしてた。っていうか、なんでこっちまで知ってんだよ……」
『いやぁ、君がきちんと学校側に情報提供しててくれて助かったわー』
「…………守秘義務とかどこいった……」
『同期だからあまり警戒されなかったんじゃないかしら?』
「…………っ、しっかりしてくれ……」

 初城さんとマスターのやり取りが遠くなっていく。
 ――博士の意識が戻った。
 その事実を理解するまでに、多少の時間がかかった。
 生きてた……。生きてたんだ!
 言葉の意味を理解していくうちに、安堵と喜びが湧き上がってきた。
 よかった……本当によかった……。

「……イト、カイトっ!」
「――はいっ!?」

 博士が生きていたという安堵の余韻に浸っていた中、強めな声で名前を呼ばれびくりとする。

「で、お前行くのか?」
「あ、え……なにに、ですか?」

 話が見えない。そう返すと、マスターが呆れ顔で深いため息をついた。

「ちゃんと話聞いとけ? 明日、メイコたちがその博士さんとやらの見舞いに行くんだと。だから、お前はどうするんだって」
「見舞い……」
「ああ。……まあ、半分呼び出しみたいな感じらしいけど」

 そうか、博士が意識を取り戻すまでちゃんとしたメンテナンスは行われなかったのだろう。
 それも兼ねて、博士に……。
 ――――でも、俺は……。

『カイトが近くにいるって行ったら、連れてこいって言ってたわよ』

 聞こえたメイコの声に体を固くする。
 俺は――逃げたんだ。傷だらけの博士を見て、怖くて、見捨て――。
 あの日の記憶が鮮明に再生される。
 傷だらけの博士のあちらこちらから流れていた赤。
 失ってしまうと、怖くて怖くて……だから、俺は……。

「……それって、マスターもついていっていいのか?」
『当たり前でしょ? 貴方も来るとなおさら都合いいんじゃないかしら?』
『あー、そうだねぇ……』
『博士にマスター情報登録してもらわないと、ですね』
『わたしも行く予定だよー?』

 ぐるぐるし始めた思考をマスターたちの会話が打ち砕く。

「ん、わかった。さんきゅー」
『じゃあ、細かいとことかメール送るからちゃんと見てね?』

 確認する初城さんにはいはいと生返事をして、通話を終わらせた。

「さて、と……」

 ゆっくりと立ち上がれるマスターの動きをつい目で追ってしまう。
 リビングに向かう途中、俺の腕を軽く小突き、

「行くだろ?」

 と小さく訊ねられた。

「……行っても、いいんでしょうか?」
「会いたくないのか?」
「そんなことないです!」

 博士に会いたくないなんて、そんなこと! ただ……。

「どんな顔して会えばいいのか、わからないんです……」
「は?」
「俺、逃げ出したんですよ!? 傷だらけのあの人を置いて! あの人が死んでしまうかもしれないって思って!」

 その事実を目の当たりにするのが怖くて、仕方なくて。だからっ。

「大切だったのに、守りたかったのに……」

 だから、会えない。会う資格なんて、ない。

「だったら、なおさら会えばいいだろ?」
「――――マスター?」
「会いたいなら、会えばいい。向こうだって連れてこいって言ってるぐらいなんだから、拒否してるわけじゃないんだろう?」

 確かに、メイコから連れて来いと言われたと聞いた。でも、もしそれが好意的な意味ではなかったら?

「…………」
「――行くだろ?」

 考えあぐねいている俺に、マスターがもう一度同じ言葉を口にする。
 ――――会って、もらえるだろうか……? 置いて逃げたことを許してもらえなくても……。
 ………………。
 目を閉じて深呼吸をする。ゆっくりと瞼を上げて、マスターを見る。

「一緒に、行ってもらえますか? マスター」

 そう訊ねる俺に、彼は当たり前だ、と笑って頷いてくれた。
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